謹慎中のザブングル。
ボランティア活動を通じて考える介護
現在、謹慎中のザブングルのお二人。現在は、熊本県の介護施設で介護ボランティアの活動に勤しんでいます。インタビューの経緯は、ボランティア活動の発表を拝見し、7月10日に取材を申し込んだことからスタートします。しかしながら、所属事務所ワタナベエンターテインメント側の意向として、「ボランティア活動は対外的に広報するべきではないと考えております。メディア取材は今までたくさんお問い合わせ頂いておりますが、すべてお断りさせて頂いていた」とのこと。このインタビューも同様に一度は「お断りさせて頂きます」とのお返事。ですが、介護業界からの注目度を繰り返しお話しさせて頂き、今回、介護をテーマに発信する「カイゴメディア」ならと、インタビューが実現しました。ボランティア活動を通して、介護に関する情報が世の中に少しでも広がってほしい、との思いを強くしたお二人。日々のボランティアでの気づきや、今後についてを語っていただきました。
今回、ザブングルの加藤さん、松尾さんがボランティアをしている施設は、今年の2月に仕事の一環でレクリエーション活動に行ったこともある介護施設です。施設側の是非ウチの施設でというお話しもあり、今回のボランティアが実現。謹慎中の二人が「ボランティアをしっかりとすることで、自分たちも変わっていきたい」と申し出たことに端を発します。
まず大きな衝撃だったのがボランティア初日。介護は体力を使う仕事である、と知識として知ってはいたものの、聞くのと実際にやってみるのとでは大違いだったようです。
「謹慎の身ですから、やれることは何でもやって、とにかく貢献しなければ、と意気込んで来たんですよ。なのに、自分にできないことが多すぎるんです。ただただ無力でしたね。下手にやってご利用者様にケガでもさせてしまってはいけませんし。専門的な知識や技術が必要な仕事なのだと思い知りました。今でこそ多少なりとも役に立てるようになりましたが、僕たち最初は正直足手まといだったと思います。ただでさえ忙しい合間を縫って、お手伝い出来る段階まで教えて下さって、感謝しかないです」(松尾)
二人がボランティアに行っているのは、介護施設の中でも比較的大きな施設。それだけに、覚えなければならないことも山ほどあります。
「まず初日、ご利用者様みなさんの顔と名前を全部覚えないと何も出来ないんだ、と感じました。『〇〇さん』と全員の名前をちゃんと呼べるようになるのがスタートライン。そして各々皆さんが、してほしいことが全然違うので、それも頭に入れる必要があります」(加藤)
介護用の飲み物には「とろみ」付けというのがあります。とろみを付けることで誤って気管に入ってしまうこと(誤嚥)を防ぐのですが、この「とろみ」の付け方もひとりひとり異なり、それも覚えなければならないことのひとつです。
「僕はご利用者のみなさん全員分の『とろみ』はもう完璧です。『とろみが完璧』と人に言って、そのすごさが伝わるかわからないですけど……。強くとろみをつける人、逆に薄っすらでいい人、それぞれ分量が違います。これを完璧にできると、ご利用者様の方々に感謝もしてもらえますし、嬉しい気持ちになります」(松尾)
芸人としてのコミュニケーション能力と、介護職で必要なこととの違い
芸人さんといえば、コミュニケーションのプロ。ご年配の方々と密にコミュニケーションを取っていく必要がある介護施設での仕事は、芸人としてのスキルも活かせるのでしょうか。
「それが、本当に難しいんです。まずそもそも、僕の力不足ゆえに、ご本人が一体何を伝えたいのかが理解できないことも多いんですよ。急に怒ってしまわれる方もいらっしゃいますし。今はなんとなく読み取れるようになってきたのですが、最初は何をすればいいのかわからず、すぐにスタッフさんを呼んで相談していて、逆に邪魔になっていたと思います。ほかにも、柔らかいものしか食べられない方に『硬いものを食べたい』と言われても、『そうですよね~』しか言えない無力感もありますし。芸人としてのコミュニケーション能力とはまったく違ったスキルが必要なんですよね」(加藤)
介護は単なる「体力勝負」だけの世界ではない
そして、とにかく二人が痛感したのは、「介護の仕事はただ単に体力を使うだけじゃない」という点。
「例えば、体を拭いたり、オムツを履かせたりするのって、やってみると思っていた以上に難しいんです。車いすの方はひとりで立つことができないですし、そうでなくても、万が一転んでしまわないように気も遣いながらになりますので。最初のころは、1日が終わるとぐったりでした」(加藤)
「ひとりひとり変化がないか、毎日常に気を張っていないといけないんです」(松尾)
そして、世の中では「介護は誰でも出来る仕事」と言う人がいることに対して、お二人は口を揃えて、「全くそんなわけがない」「一度でいいから介護の仕事を実際に体験するべき」と続けます。
また、人手不足ともしばしば言われる介護職。実際に現場を見た二人は、この事実に力強く嘆いていました。
「実際に介護現場に入って初めて知ったのですが、介護って本当に1日中ビッシリ仕事が詰まっているんです。人手は不足していますが、かといって誰にでもできる仕事ではないんですよね。恥ずかしながら、僕はここに来るまでこういった介護職が抱える問題について、深く考えたことがありませんでした。身をもって知ったことで、これをどうにか広めていかなければならないという問題意識を強くしました」(松尾)
「最近のニュースでは、介護スタッフが介護施設で暴力を振るった、なんて事件もありますよね。ああいった事件を起こす介護職は本当にごくごく一部のケースだと思うのですが、逆に誤解をされやすいこともあると知りました。高齢者の方って自分の体に肘をついただけで、簡単にアザができることもあるらしいんです。そのアザを見たご家族の方が、暴力だと勘違いするケースもあるみたいで」(加藤)
介護が「憧れの職業」になるためには
今後、レクリエーションなどを通じて介護の分野に関わりながら、人手不足や待遇改善を図るための仕掛けも考えていきたい、とザブングルのお二人は語ります。
「介護職の方皆さんそうなのかもしれませんが、今回お世話になっている施設、本当に人のいい方ばかりなんですよ。僕らにも気さくに接してくれて、色んなことを教えてくれて、とにかく感謝です。いきいきと明るく仕事されてますし、こうしたやりがいのある仕事だというイメージも世の中に広がっていくと嬉しいですね」(加藤)
「介護職の方々は、ものすごくレベルの高いことをしているんですよ。体力、考える力、気の遣い方、様々な角度の総合的な能力が必要になってくる仕事です。自分のためじゃなくて、100%他人のためにと思って介護という職業につかれているわけですからね。この仕事が『憧れの職業』になるといいなと思っています。昔、芸人という仕事もなりたい人が少なかったですが、あるときから憧れの職業になって、目指す人も増えました。それと同じように、『なりたい』と思ってもらえる様に、僕達も微力ですが今後も介護に関する情報が世の中に広まっていく様にお手伝いしていきたいと思ってます」(松尾)
「体験すると、間違いなく自分の将来像も考えることになると思います。シンプルに自分の老後をリアルに感じて、“他人事” ではなく“自分事”として捉えられるようになりますし、『少しでも長く元気でいるために、今のうちに運動しておかないと』と思うこともあるかもしれません。そういった『介護を理解する』のための仕組み作りをたくさんの介護に携わる皆様と考えていきたいですし、今後一生のテーマとして関わっていけたら本望です」(松尾)
「いずれ自分の親も自分自身もいつかは身体が弱くなっていくのだなと、高齢化社会の日本を深く考えさせられています。レクリエーションを通して、自分の今までのお笑いのスタンスは、世の中の人を楽しませるというよりかは、いかに自分が面白いと思われたいかでしたが、介護に携わり少し考え方が変わり、自分の面白さの押しつけではなく、世の中の人達を楽しませて笑顔にしてあげたいという気持ちに変わってきました。すごくいい人生経験をさせてもらっています。熊本の人達は皆さん本当に暖かく第二の故郷になりつつあります」(加藤)
■ボランティアを受け入れた介護施設の施設長様、職員の方々へのインタビュー
お二人のボランティア内容は、どのようなことをされているのでしょうか?
「ご利用者様へのご挨拶にはじまり、バイタル測定、お茶、お食事の下膳・配膳、入浴後のドライヤー、業務終了直前に清掃活動などです。空いた時間はご利用者様との会話、そして新しいレクリエーション内容の考案、実施です」
この数週間でお二人に変化はございますか?施設長様目線で感じることは?
「変化は彼ら自身が一番感じていることだと思います。こちらとしては終始真面目にボランティアを妥協なくされておりましたので、思うことは『本当にいつも真面目』という印象でした」
スタッフさんからはどのような声が挙がっているのでしょうか?
「スタッフの声としては、
“二人がレクリエーションをしていただくと、すごく盛り上がります!お二人のレクリエーションを参考に今後もご利用者様が喜んでいただけるレクリエーションをご提供していきたいです”
“わたしがレクリエーションをしていると、時に間髪入れずにすごいツッコミがはいるのですごくやりやすかったです!”
“手伝ってほしいときなど、急にお願いしても嫌な顔一つせずに協力してくれた”
“話し方、間の取り方といい、さすがプロだと思いました”
“すごく丁寧にご利用者様、職員に話しかけてくださるのでわたしたちもより優しい気持ちになれた”
という声が挙がっています」
■ザブングルの今後の活動について
所属事務所ワタナベエンターテインメント様によると、
「7月7日から8月2日まで熊本にてのボランティア活動後、8月7日には北海道の認知症対応型共同生活介護施設の訪問を予定しております。それ以降に関しましては、ワタナベエンターテインメントにお問合せして頂いております、100件程の介護施設様からのボランティア活動、レクリエーション等で活動していきます。」とのことです。
■編集後記
介護業務に真摯に取り組んでいるザブングルのお二人。付け焼刃ではなく、心の底から介護という仕事と向き合っていることに驚きました。特に印象的だったのは、介護職の方々に対し「体力だけでなく、知識、技術、ノウハウが必要な仕事。本当に尊敬する」と力強くおっしゃっていたこと。ぜひ、今後お二人の力で、介護業界を盛り上げていってほしいと思います。(カイゴメディア ケアきょう編集部)
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